その6:「オベラで再び途方に暮れる」
翌朝、9時に農家のオーナーがホステルまで迎えにくるということなので、準備万端で私たちは待機していた。
約束通り、オーナーがやってきて、デイブが事情を説明してくれる。
ここまで漕ぎ着けたんだからもう大丈夫だろう!と安心しきっていた私たちだったが思わぬことに。
オーナーの車がピックアップトラックのような車で、二人しか乗れなかったのだ…
これはどうしようもない。
気を取り直し、
「大丈夫!私たちバスも調べてあるし、バスでオベラまで行くわ!着いたら連絡するから!」
「うん、それがいい!ごめんね、オベラに着いたら連絡取り合って合流しよう!」とデイブ。
そういうことで、私たちはバスでオベラに向かうことになった。
バスで2時間、バスターミナルに到着。だが、wifiが弱すぎてデイブに連絡を取ることができない。
急遽、オベラの宿を予約して宿のwifiを使うことに。
ただ、この時点でかなりの時間が過ぎてしまっていた。
やっと連絡が取れた時には、時すでに遅し。デイブとオーナーは私たちを待っていてくれたようなのだが、遅すぎたようだ。
すでにオベラから1時間半先の農場に移動してしまったということだった。
「ごめんね、どうしようか!?何か方法は…」と困った様子のデイブ。
これ以上デイブに頼るのは申し訳ないと思った。
デイブはマテ茶のビジネスを始めるにあたって、まずブエノス・アイレスで2年間スペイン語を勉強し、数々のマテ茶農家を訪問し、やっとビジネスを形にしたのだ。
普通であれば自分が何年もかけて考えた輸送方法やマテ茶農家を教えるのは嫌だろう。
それを突然マテ茶仕入れたい!とやってきた私たちにその努力の結晶を無償でいろいろ教えてくれていた。
もうここからは自分達で道を開拓して行くしかないと思った。
デイブには「私たちはチェックしてたマテ茶農家を訪問してみることにするから大丈夫!いろいろありがとう!」と返事をし、電話を切った。
とりあえず、デイブが後日一件マテ茶農家を紹介してくれるということだったので、昨日より大きく前進はしている。
けれど私には気になることがあった。
デイブが紹介してくれるマテ茶農家の物は確かに非常においしい。私たちもそれぞれ順位は違えど全員がベスト3に入れていた。
マテ茶の香りが濃く、マテ茶好きにはもってこいの茶葉だ。通常マテ茶の茶葉は煙で乾かすのだが、ここのマテ茶はアルゼンチンでも唯一無二の空気を使った乾燥を行っており、そのため茶葉が生の茶葉のようなフレッシュさを残している。このフレッシュさが他にない爽やかな後味を残す。
朝や仕事中のコーヒーや、エスプレッソの代わりに飲むには一番最適なマテ茶と言える。普段からコーヒーを私以上によく飲む夫はダントツ一位だと言っている。
けれど、私は初めての方でも飲みやすい、もう少し柔らかくて丸い味の女性好みの茶葉もほしいと思っていた。
また、デイブとの約束もまたいつ流れてしまうかどうかわからないという不安もあった。
デイブのことはもちろん信頼していたが、マテ茶探しの旅、有力情報を掴んでは流れ、アポイントをとっては流れ…を繰り返していたので、疑心暗鬼になっていた。
そしてもう一つ。
どうしてもマテ茶畑を見たかった。
マテ茶を売っているのに、「マテ茶畑見たことありません」ではあまりに偽物くさい。
マテ茶畑と、茶葉の製造工程をこの目で見ておきたかったのだ。
…とは言うものの。
何度も言うが私たちには何のツテもない。
またあの途方に暮れた時のずっしり重い雰囲気が立ち込める。
どうしたものか。
デイブのところだけでいいじゃないか?という考えも頭をよぎったが、せっかくこんな所までやってきたのだ。
やるだけのことをやらないと後悔しそうだ。
そこでgoogle翻訳を使ってスペイン語で以下のような文章を書いた。
「私たちはオーガニックのマテ茶を日本に輸出したいと考えています。
この農家(チェックしていたマテ茶農家名)の住所を教えてもらえませんか?
その農家は遠いですか?」
この文章を手当たり次第、人に見せてまわる作戦である!
…もうこの方法以外、思いつかない!
本当にオベラがマテ茶農家の街であれば、一人くらい誰か知ってるだろう!という賭けだった。
この文章を持って、街の中心部へ向かう。
一体私たちは何をやってるんだか!と時々ふと我に返っては笑えてくるが、気分はRPGの主人公である。
もう進むしかない!!!
[マテ茶探しの旅]
記事一覧
その1:「マテ茶との出会い」
その2:「アルゼンチン・ブエノスアイレスへ」
その3:「ポサーダスの夕暮れ」
その4:「"マテ茶"をたずねて三千里と絶望」
その5:「マテ茶の神、降臨」
その6:「オベラで再び途方に暮れる」
その7:「まさかの出会い」
その8:「上手くいくこともあれば、いかないこともある」
その9:「マテ茶のすべてを知る」
その10:「最後に」