UTOPIA


TRAVELING REPORT / 01

 

マテ茶を探す旅

アルゼンチン/ミシオネス州

 

その3:「ポサーダスの夕暮れ」

「ミシオネス州であれば、バスでポサーダスまで行くといいよ。」そんなアドバイスを受けて、バスチケットを予約。
ミシオネス州はアルゼンチンの最北部の州。
イグアスの滝で有名な州で、ブラジル、パラグアイとの国境にある。国内では三番目に小さい州だが、それでも静岡市の四倍の面積がある。
ブエノス・アイレスからポサーダスまではバスで12時間。想像以上に近い。以前、アルゼンチン南部のパタゴニアを旅した時は平均しても各バス24時間はかかった。
それに比べればわずか半分、気が楽だ。
そもそもアルゼンチンのバスは日本のバスからは想像もつかない程快適だ。距離にもよるが今回の場合だと1200円アップさせて最上位クラスのシートを選ぶと、フルフラットになる。各シートはカーテンで区切られ個室のようになり、車内にトイレもあれば機内食も出てくる。そのためバスは休憩時間を取る必要もなく、時々停留所に止まる以外はノンストップでパンパと呼ばれる荒野の中を走っていく。
広大なパンパの中では視界を遮る物が何もないため、大きな月が地平線からボコッと出現する。日本でも時々大きな月を見ることがあるが、アルゼンチンの月はいつもそれ以上に大きく、赤く感じる。この月を見るとアルゼンチンにやってきたんだ…と実感が沸く。


 
翌朝にはポサーダスに到着し、ドミトリーのホステルにチェックイン。 早速街を見て回ることにしたが生憎この日は日曜日。どの店も閉まっている。
大きな聖堂が立つ街の中心部に着くと、マテ茶を飲む大きな像が。すぐ側には「マテ茶ミュージアム」の文字も。ついにマテ茶の街にやってきたのだと心がはやる。

 

 

夕方、大きなパラナ川沿いの遊歩道に出てみると、たくさんの人が夕日を見に集まっていた。みんな各グループにひとつ魔法瓶とマテ茶セット。おしゃれな若者もおじいちゃんも小さい子がいるファミリーもみんなマテ茶を持っている。みんな好きな音楽をかけながら夕日を眺め、マテ茶をすする。
 
せっかくなのでマテ茶を飲むいろんな人に声をかけ、写真を撮らせてもらう。すると「一緒にマテ茶飲みませんか?」と誘ってくれる。

 


 

二年前、初めてマテ茶を勧められた時は知らなかったのだが、アルゼンチン人にとってマテ茶はただの飲み物ではなく、コミュニケーションツールのひとつなのである。みんなで回し飲みすることにより親睦を深める。マテ茶を勧めるということは「仲良くしましょう」という意味。これを受け取って飲むと「はい、仲良くしましょう」という返事になる。これに恋愛が絡むともう少し複雑で、熱いマテ茶を出されると「愛してる」、冷えたマテ茶は「早く帰って」、薄いマテ茶は「他の人が好き」などを意味するらしい。ただ普段はこんな深い意味はなく、大人も子供も老人も「仲良くしましょう!」と勧めてくれる。
どんどん空を染めて陽が沈んでいく。川向こうの街はすでにパラグアイ。本当に遠くまで来たんだと感慨に耽る。

 

 

 

 

太陽が川に沈むのを見届けてホステルに帰ると、さっそく「マテ茶はいかが?」と差し出してくれる。受け取って飲むと相手もにっこり笑顔。
「どこから来たの?何しに来たの?これからどこ行くの?この街の夕日は素晴らしいだろう。僕たちもこの街が大好きなんだ!」
マテ茶のまわりに次第に人が集まり、プチマテ茶パーティーのはじまり。ここポサーダスはイグアスの滝が近いといってもバスで6時間もの距離。主要な観光スポットも特にないため、私たち以外はみんな観光目的ではなく用事で来ているアルゼンチン人だった。みんな英語は話せなかったが知ってる単語を並べてする会話が楽しい。マテ茶の作法を一生懸命教えてくれる。

実はこのホステル、シャワーが水しか出ない。一泊1000円と激安なので文句は言えないが、 フリースにダウンを重ね着してるような真冬に 水シャワーは非常にきつい。チェックインした直後にはそれに気がついていたため、明日は他のホテルに移ろうと話していたのだが、普通のホテルであればこのような出会いもないだろう。寒いけれど楽しい方がいい。私たちは明日も延泊することに決めた。

夜、水シャワーで凍えた体を寝袋で暖めて就寝。明日は月曜日、さっそくマテ茶農家探しをはじめよう。今回も良い旅になりそうだ。体は冷たいが心はぽかぽか。充実感いっぱいで眠りについた。

 


 

その4「"マテ茶"をたずねて三千里と絶望」に続く

 



[マテ茶探しの旅]

記事一覧

その1:「マテ茶との出会い」
その2:「アルゼンチン・ブエノスアイレスへ」
その3:「ポサーダスの夕暮れ」
その4:「"マテ茶"をたずねて三千里と絶望」
その5:「マテ茶の神、降臨」
その6:「オベラで再び途方に暮れる」
その7:「まさかの出会い」
その8:「上手くいくこともあれば、いかないこともある」
その9:「マテ茶のすべてを知る」
その10:「最後に」