タイトルが一瞬わからないこちらの本は昭和8年に出版された安倍 能成著「ギリシャとスカンディナヴィヤ」
内容はタイトルの通り、著者の安倍能成がギリシャとスカンジナビアの国々を巡って記した旅行記です。
各国の名士と握手をすることもなく、学者と議論するようなこともなく、アヴァンチュールに興じることもなく、かといって一人の魂を深く掘るような時間でもなく、一人で旅をしながら傍観者として見た風景やその時感じたことが淡々と書き綴られています。
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右から読むタイトルに戸惑いますが、文章は簡単で、するすると読み進められます。
著者自身、自分の旅行記は退屈だからと出版をずっと渋っていたと話しているように、本当に際立ったドラマもなく、ただ淡々と進んでいく内容ですが、何気なく出会った美しい風景に対する感動であったり、旅のはじめや道中のふとした瞬間に感じる一種の憂鬱であったりと、飾らない著者の言葉に、うんうん、わかるわぁと共感します。今も昔も旅先で感じることは同じなんですね。
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昭和8年…つまり87年前の本なので、ページにはシミや黄ばみが多数ありますが、それもまた味わい深くて良し。古いなめらかな紙に印字されたページに触れると、触覚を通してさらに私たちの知らない古い時代へと連れて行ってくれます。
秋のしっとりとした長い夜に、美味しいお酒やお茶を飲みながら、87年前の世界旅行を楽しめる一冊です。
小山書店
昭和8年12月20日印刷
昭和8年12月25日発行
※箱に破れ、中のページにはシミ・黄ばみが多数ございます。